輸入貿易会社、社長の仕事術

経営46年の経験・知恵が詰まった集大成ブログ

輸入検品後の後払いを貫いた

輸入をするには第二点目の問題点が存在する。それは商品の出荷と支払いに対する輸入側、輸出側双方のリスク回避に関することだ。初めて取引をする場合はお互いに信用が未確認である。輸出側は注文を受けても後でキャンセルされたり、無視されたりすると、商品の生産あるいは調達が無駄になる。あるいは不良在庫になる怖れがある。

これを回避するために輸出者は注文額全額の前払いを要求することが多い。最近まで中国との取引はこんな支払いが条件であった。それも比較的大量の注文にしか応ぜず、これでは輸入者すなわち我々のリスクは大きい。

特に中国など生産が未熟あるいは相手会社、その経営者、工員などが信用できないこともあり、注文した商品に欠陥がないか、商品の質は合意通りあるいはサンプル通りのレベルに達しているか。又は出荷された数量が少ないことなどはないかなど、前払いは本当に日本側に取ってリスキーである。

そのようなリスクを解消する手段がⅬ/Cという銀行発行の信用状というものだ。これは商品が発送されたら支払いは銀行が保証するという確約書で輸出側のリスクをなくす役割を果たした。現在は使われる度合いは少なくなったが、以前は輸出入取引と言えば必ずこの手段を取ったものだった。しかしこれも100%の信を置くことができない。

何故なら銀行は貨物の状態やその中身の状態を検査することはしない。単に書類が完備していれば支払いを輸出側にするからだ。中にはケースの中身が石ころだったこともあったと聞いている。

国際化が進んでさすがにこんな悪質な行為をする会社は最近では聞かなくなったが、中身の品質などについて輸入側は前以て知ることはできない。現地に赴いて中身を検品することも可能だが、費用も時間もかかるので、こんなことはできない。

反対に輸出側にもリスクがある。

万一輸入側の会社が倒産などしたら、銀行は必ずと言って良いほど、何等かの理由を付けて支払いを拒否する。この点銀行のやり口は信用ならない。

これに代わって考え出されたのが輸出出荷を任された会社(フォワーダーと言う)が支払い、出荷の確認を仲介する方法である。輸出会社の保税倉庫に商品が搬入されればそれを輸入側に通告して支払いを促し、その支払いが確認されれば出荷をすると言う段取りを取る。そうすると輸入側は倉庫に運び込まれ数量は少なくても確認できる。ただ中身の確認についてはやはりしようがないことには変わりはない。

それに輸出側は注文された商品を必ず引き取り、代金を支払ってくれる確約が取れない。勘違いや輸入会社の資金繰りの悪化で、品物を引き取ってくれないことへの対処ができないのだ。どちらにしても信用のできない相手と取引するのはかなりリスキーだ。何かの方法を取って相手の信用状態を確認する必要が生じる。

我が社はある時期から前払いや前述の支払い方法は廃止した。

一度ある程度の数量(多分900万円くらいだったと記憶する)の商品をオーストラリアから買った。しかしサンプルと現実に出荷された商品の品質が違って売り物にはならず、その商品を廃棄したという経験をした。

もちろん相手とは取引は中止。それから支払いは商品が到着してから検品して支払いを行うという方針を取った。しかしこれでは相手側はリスキーだ。こちらは絶対に支払うという固い意思と能力があったが、それを確認する方法がない。

しかしこの方法を押し通し、今に至るまでトラブルは発生していない。それでも前払いを要求する会社は必ずあり、何とか説得するようにしているが相手が拒否をするケースがある。その場合はこの会社とは縁がなかったと諦める。そんな取引条件を断固貫くという姿勢を貫き通した。

これが功を奏したのか、輸入する商品は入荷後検品しないと支払いはしないという会社の考えは相手にほぼ承認された。

国内外とも相手が信用できるから取引ができるのだ。それがないとどんなに商品が良く、価格が魅力的でも取引はしない方が良い。一度や二度はトラブルがなく、取引が完了するかも知れないが、必ず修復できないトラブルが発生すると覚悟を決める必要がある。

ビジネスにはトラブルが付き物だ。トラブルが発生した時、お互いが誠意を以て解決に当たれば、その後取引は円滑に進む。それが信用というものだ。