輸入貿易会社、社長の仕事術

経営46年の経験・知恵が詰まった集大成ブログ

アイデンティティを探そう

創業するに当たり、考えておかなければならないことがまだある。それは自社の営業のアイデンティティを持つことである。例えば3Ⅿは「表面処理」だし、IBⅯは「ビジネス遂行の手段」、ヤナセは「いいものだけを世界から」という具合である。

これがあると自社がそれに関して現在行おうとしていることを確認できるし、それに沿って扱い商品を再考することも可能である。また将来、アイデンティティ自体を拡充し、ビジネスの範囲も広げることができる。

元々IBⅯは「ビジネス機械」であったのが、前述のアイデンティティに変更、拡充したのである。

 

トヨタトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売で二つの別々の会社であった。

その後2社は統合してトヨタ自動車となった。トヨタはこれにより「自動車の製造」と「自動車の販売」というアイデンティティを2社が持っていたが、統一された「自動車の製造販売」となり、大きなアイデンティティを持つに至った。

このようにする利点は自社が目指している方向を定め、商品構成や考え方を明確にすることである。決められたアイデンティティを遂行するために不足している商品を発掘し、製造または仕入、販売することができる。

例えば前述の3Ⅿでは「表面を処理」するための商品でまだ取り扱っていない商品がある。たとえば化粧品である。これは女性の顔の表面を処理する品物である。ただヤナセの「良い物だけを世界から」というのは幅が広すぎ、漠然としている。これでは海外から輸入するというアイデンティになってしまい、現在においては達成可能であるとは思えない。

同じ例が大塚家具だ。元々は「高級家具の販売」であったのが、現女性社長が「家具の販売」にアイデンティティに変更してしまい扱い商品の範囲を広げてしまった。だからターゲットにしていた客層が散らばり、高級家具を求めていた客に混乱が生じた。高級家具の客は高級な家具や厚いサービスを求めるのに対して、低額な家具を求める客の要求は値段である。

大塚家具は中小企業である。中小企業においては資金、従業員、仕入先、その他の関連で扱い商品のターゲットを絞るべきなのに、大塚家具では逆をしてしまった。

ある漁網製造、販売会社は中小企業ではなかったが、韓国との値段競争に巻き込まれて、売上が減少した。そこで新たな事業に進出しようとして「鮪の販売」というアイデンティティを設定して、従業員も新規採用して、事業を始めた。

 

ある程度事業が進んだ時、その事業の社員(大学の同窓生だった)と話したことがある。

鮪は三菱商事など巨大な会社が扱う商品で、漁網会社には競合するだけの経験も資金の裏付けもなかった。そこで私はそんな一般商品を扱うべきではない。例えば「城下鰈」を独占販売するなど、もう少し小さな額の商品に限定しては如何かと提案した。

当時聞くと粗利益は1から1.5%で、儲かる訳がないと思ったからだ。この利益率は競争に勝つために設定したもので、三菱商事がこの会社の事業を潰すために安売り攻勢を掛ければ、一たまりもない。結局その事業は失敗に終わった。

 

本は最近売れない商品になってしまった。

それなのに巨大な本屋ができ、小さな規模の本屋さんは立ち行かなくなった。これに関して私の提案は例えば「児童用の本」などという小さなカテゴリー設けて店を運営することだ。

小さな範囲のアイデンティティを持つことは小規模な会社にとって新しい事業になり得る可能性を生み出す。ラーメンだけを扱う店は大きな繁栄を見たし、例えば等外品の野菜だけを扱う店とかは考え方としてあるだろう。等外品は見た目が悪いが、味は変わらない。